神主のテリトリー内の話題ですが、正直者の編者はどことなく本心を曝け出す。そこに魅力があるのが本書です。
『事実証談』は「ことのまことあかしがたり」と読みます。「どの話題も裏を取ってあります」という意味で、「古えの奇霊を知れば今の奇霊がわかる」と集めた世間話集です。集めたのは、国学の本居大平(もとおりおおひら、本居宣長の養子)や平田篤胤の弟子の中村乗高(のりたか)で、遠州森町の天宮(あめのみや)神社の宮司です。大平や篤胤は『事実証談』に序文を寄せています。
 天宮神社の旧社格は県社。祭神は九州の宗像三神です。地方神社としては珍しく舞楽を伝えます。つまり、天宮神社はそれほどに古い神社で、江戸時代の世襲神主家が中村乗高家です。
 本書はその中村神主が集めた世間話集。もちろん、神主としての立場で聞き取り、さらに文字に起こしたわけですから、神主なりの受け止めがあるわけです。単純な世間話集ではありません。近世の神主が他宗教をどのような目で見ていたのかも含めて、神主の本心を読み取ると、さらに近世の神主世界が広がります。